おいしいおかゆ

おいしいおかゆ

グリム昔話 石井桃子 訳

 

昔、あるところに、貧乏でしたが、気立てのよい女の子がいました。その子は、お母さんと二人きりで住んでいましたが、ある時とうとう食べるものがなくなってしまいました。そこで女の子は、食べ物を探しに、森に出かけていきました。

 

すると、ひとりのおばあさんに出逢いましたが、そのおばあさんは女の子の困っていることを、ちゃんと知っていて、小さなお鍋を一つ、その子にくれました。そのお鍋は「小さなお鍋や、煮ておくれ~」というと、とても美味しいキビのおかゆを煮てくれて「小さなお鍋や、やめとくれ」というと、煮るのをやめるのでした。

 

そこで女の子は、このお鍋を、お母さんのところへ持って帰り、それからというもの、二人はいつでも好きなときに、美味しいおかゆを食べられてひもじい思いをすることがなくなりました。

 

ところがある日、女の子がよそへ出かけていた時のこと、お母さんが「小さなお鍋や煮ておくれ~」と言ってみました。すると、お鍋は、やっぱりおかゆを煮てくれました。そこで、お母さんは、お腹いっぱい食べてから、さぁ、もう止めてもらいたい、と思いましたが、どう言えばいいかわかりません。そこでお鍋は、いつまでもいつまでも、ぐつぐつ、ぐつぐつおかゆを煮ていましたので、まもなくおかゆはお鍋の淵から、どんどん、こぼれだしました。それでもお鍋は、まだ、ぐつぐつ、ぐつぐつ煮ています。

 

そのうち台所がおかゆでいっぱいになり、家じゅうがおかゆでいっぱいになり、家の前の道もおかゆでいっぱいになりましたが、お鍋はまだ、ぐつぐつ、ぐつぐつ、煮ています。まるで世界中を、おかゆでいっぱいにしてしまいたい。と思っているようでした。

 

そこで町中、大騒ぎになりましたが、だれもどうすればいいかわかりません。とうとう、おかゆの流れこんでいない家は、町であと一軒、ということになったとき、女の子が帰ってきました。そして、一言。「小さなお鍋や、やめとくれ~」と言いますとお鍋は、ぐつぐつ煮るのを止めました。

でも、この町に帰ってくる人たちは、自分の通る道をパクパク食べて、食べ抜けなければなりませんでしたとさ。

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